ベルギー 三渓谷鉄道の旅

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upload 2014/7

2005年にベルギーに行った時の話です。

ベルギー 3渓谷鉄道の旅

1.計画


当時、毎年海外に行っていた。
今年は何処に行こう?

「一度は行って見たい。 ヨーロッパSLの旅」という本を見て行く先を考えていた。

ヨーロッパにはSLが走っている保存鉄道や軽便鉄道が多い。

ドイツのモリーか? リューゲンか? スイスのSLの登山鉄道か? オーストリアにも小さな鉄道がたくさんあるし、何処に行こう?
いずれも、詳しく情報が載っていて、行き方も書いてある。だから行く気にさせてくれる本だ。

でも、決め手が無い!

パラパラ本をめくっていると
小さな記事を見つけた。





三峡谷鉄道と言うのだが、これ以上の情報は書いていない。Marienbourgという駅から出ているようだが、、、

ベルギー?  行った事が無い?
この鉄道への行き方もこれだけしか載っていない、

と思ったのだが、よし決めた! ここに行こう。

まさに「漁夫の利」的な感じで他の国を蹴落として、ベルギーに行く事にした。

ベルギーは何となくわかるが、さて、この鉄道はどの辺にあるのだろう。 どうやって行けば良いのだろう。

早速、トーマスクックの時刻表を引っ張り出し、ベルギーの鉄道路線を見る。


首都ブリュッセル(ここのホリデーインを予約した)ははっきり分かる。
ここから南に行くのだ。

ちなみに、ブリュッセルから北にゆけばオランダに行ける。
西に行けば、屋根の無い美術館と言われる美しい町ブルージュに行ける。 
ということで、この旅の目的地として三峡谷鉄道(CFV3V)以外に、こういう所にも行こう。


少しアップで載せよう。
調べた結果鉛筆で書きこんだ辺りに三峡谷鉄道はある。
411の路線でCharleroiという駅に行き、そこから422の路線で行くのだ。

422を見ると

Marienbourg駅がある。

読み方が解らないけれど、今、グーグルマップで見るとカタカナで地名が出てくる。 もちろん当時はこんな物が無いので自分流で読んでいたのだが、以後グーグル読みをする。

Charleroiシャルルロア駅で乗り換えてMarienbourgマリオンブール駅まで48kmもあるけれど、確かにこれで行ける。
その駅から三渓谷鉄道が出ているはずだ。



2、ホテル出発

 ブリュッセルは坂の多い町である。 建物が立ち並んでいるので、山には見えないけれど山と言っても良い地形だ。 

ホリデーインは坂の途中にあるホテルで、前の狭い道をトラムが通っている。もちろん車も通りので、トラムが来た時には交通渋滞状態だ。 行った頃にはトラムはすでにほとんどがLRTで最新システムが取り入れられているのが解る。

今日は三峡谷鉄道に行くので、ホテルを朝7時過ぎに出る。 地下鉄の駅まではトラム1駅ちょっとの距離だが、歩く。 前夜に夕食を食べに行ったついでに地下鉄の駅の場所は調べてある。

ホテル近くの市電の停留所。 何故か下着の広告が多い。



地下鉄のホーム。 駅名が2ヶ国語で書かれてある。

2駅程で、国鉄のブリュッセル南駅に着く。
ホームは高架なので、コンコースからエスカレーターで登る。 大きな駅でたくさんのホームがあるらしく、エスカレーターもいくつもある。


この時、ガラガラ、ガラガラ ガシャンガシャンと大きな音がした。
思わず見ると、エスカレータから大きな箱が転げ落ちてくる。 金属製の大きな箱で、撮影機材でも入れるような箱だ。

それが、エスカレーターから転げ落ちている。 エレベーターを使わずにエスカレーターで降ろそうと思って落としてしまったようだが、幸いエスカレーターに客が乗っていなくて、箱は下まで転げ落ちただけで済んで良かった。
もっとも、中の物は壊れているだろうが、、、


ホームで8:46発シャルルロア行きの列車を待つ。

やっぱり下着のコマーシャルだろう!

だんだん人が増えてくる。

ホームに人が一杯になりだした頃、客が一斉にホームから階段やエスカレーターで下に降りだした。

ありゃ? と思ったが、これは列車の入るホームが変わったんだと、思ってすぐに付いて行く事にした。
放送があったのだろうが、こちらは何も聞き取れない。
こういう時は人の動きで判断する。

数年後フランスのニースで同様な事があった。 ホームのベンチに腰掛けてボーと列車を待っていると、ご婦人が声を掛けて来た。 列車のホームが変わったので、そちらに行きなさいと、英語である。放送はフランス語だったので、全然聴き取れずにボーッとしていたら親切にも教えてくれたのだった。 見るに見かねたのだろう。 ありがたい。

さて、ブリュッセル
人の動きについて行って正解だった。

やがて、列車が入って来た。
この列車だったのかどうか、はっきり覚えていないが多分これだ。


海外旅行ではほとんど、1等のフリーパスを買う。  この時にはベルギーとオランダのフリーチケットを購入していた。 日本で買っておくのだ。

現地の駅で切符を買う手間もいらないし、1等なら空いているので、指定席まで予約しなくてもよい。 客層も良さそうで安心して乗れる。 

まあ、日本でグリーン車にはほとんど乗った事が無いほどだが、グリーン車と言うのは外人には何の事かわからないそうだ。 ただの緑と言う意味では何の事か解らないのは当然だ。1等、2等の方が解りやすいのに変な名前を付けたものだ。


これで、初めてのベルギーの景色を車窓から堪能しながら乗り換え駅のシャルルロアに向かう。


途中の駅で。 ドアはこんな風に開くんだよ〜




3 三渓谷鉄道への道

 シャルルロアで、20分ほどの接続で、目的のマリオンブールに行く列車が来た。
かなりのローカル線なので、旧型のディーゼル列車かと思ったらずいぶん新しい形が来た。

これはマリオンブールに到着した時の写真だが、なかなか形が良い。

車内は混んでいた。 しかし、私は1等に乗れる。 

1等は車両の前1/3程ほどでこの写真でも赤いドアの後ろに黄色の線があるので解るだろう。  何人か客が居たが、ちゃんと座れて50分間快適に過ごせた。 ローカル線にも1等があるとは素晴らしい。


マリオンブールの駅舎だが、しっかりした石造りで、窓やドア、雨どいが赤でおしゃれである。

そして、横に三渓谷鉄道の駅があるはずだと思ったが、それらしきものが無い!

たくさんいた客はいつもの事ではあるが、私が車両や駅の写真を撮っている間に何処かに行っていない。

前に人がいないのでどちらに向かって歩き出せば良いのか解らない。

三渓谷鉄道はいったい何処にあるのだろう?

そこで、駅員に尋ねる。
英語が通じない、ここはベルギーとフランスの国境に近いのでフランス語圏内なのだ。

きっと、ナポレオンか誰かが占領して、フランスの一部だったのだろう。 日本は占領された事が無いのでピンとこないのだけれど、ヨーロッパではこういう事はあちらでもこちらでもあって、同じ国の中でも色々な言語がある。

それでも駅員は私の聞いている意味は理解しているらしく、道を指さして「ワン、ツー、スリー、レフト」と言った。

そうか、3つ目の角を左に曲がればいいんだ。


3つめの角は、教会のある広場だった。

教会の横の道から出てきて、振り返った写真です。

さて、広場からは何方向にも道が出ている。
すなわち、町の中心でここから放射状に道が出ている。

左に行く道も2つある。 どっちだろう?

道の先の様子を見て見るが、鉄道がありそうな雰囲気は無い。

そこで、近くにいる人に聞くが、英語が全く通じない。
三渓谷鉄道を教えてもらうだけなのだが、通じない。

そこで、考えた。
スーツを着て教養のありそうな人が来るのを待とう。

来た、この人ならどうだ。
大正解。 英語が通じて、道を教えてくれて地図を描いてくれた。

その地図がこれだ。

下の端が今居る所。 上に向かって行って、印があるところが三渓谷鉄道だと言う。実にいい加減な地図であるが、これが私にとってはバイブルだ。

取りあえず、道は解ったので歩き始める。
しかし、この地図では距離が解らない。

思ったより遠い。なかなか着かない。

田舎の町で、道の両側に家があったのが、だんだん無くなり、心細くなった所で、こんな景色に。

給水塔と機関庫らしきものが見える。
これだ。

駅から2kmほど、やっと着いたようだ。



4 三渓谷鉄道の駅


ここが、三峡谷鉄道の入り口だ。
手前の線路はベルギー国鉄の線路。

かまぼこ型の建物の中に、小さな売店がありそこでチケットを販売していた。やはりフランス語しか通用しないが何となく雰囲気で解る。

それは、今日は運行しないと言っているようだ。

そんなはずはない、土曜日も運行しているはずだと、執拗に聞くと、Vepeurは運行していないと言う事だそうだ。
そしてAotorailなら運行している、と言う。

そうか、Vapeur locomotifは蒸気機関車で英語やドイツ語なら解るのだが、まさかVepeurが蒸気機関車だとは解らなかった。
Aotorailは、何となく気動車だと言う事は解る。

気動車が走っているなら上出来だ。

往復チケットを買うが、その時に終点の駅に機関車のミュージアムがあるがそのチケットも買わないかと言われた。 その情報は知らなかったのでたいしたミュージアムではなかろうと、買う気がしなかったが、しつこく言うので購入した。

この鉄道は、ベルギー国鉄の廃線になった所を利用していると言うが、大きなヤードと機関庫や水タンクなど立派な施設がある。

実は、帰りにマリオンブール駅から、この三峡谷鉄道を見た写真がこれだ。

黄色い新しい気動車群の後ろにたくさんの車両と機関庫などが見えている。 そこが三峡谷鉄道なのだ。望遠レンズでこの距離なので駅からかなり歩いたはずだ。



駅などと立派な物は無くヤードそのもので、自由に入って写真を撮りだす。
こんな気動車は大好きなのだ。

蒸気機関車もある。


珍しい客車や貨車もたくさんある。

すると

女の人が来た。 この人は英語が話せる。

そうなんだ、店の売店の人が、日本人が来ているので誰か英語を話せる人が居ないかと探してきてくれたのだ。

この方は、今から出発する気動車の運転士の奥さんだそうで、それまでの間、私の相手をして色々説明してくれた。
わざわざ来てくれてありがとうございます。

その内に出発の時間が近づいて、運転士さんと車掌さんも来た。


乗り込んできたのが運転士さんで、この方は英語が話せる。 宜しく、と握手していよいよ出発。


右側がプラットホームで、ここから出発。

さあ、どんな景色が待っているのだろう。



5 出発

 エンジンの音を上げて赤と黄色の気動車はだんだん速度を上げて行く。 もちろんゆっくりではある。これがローカルな雰囲気で、とても心地が良い。

数人しか乗っていない車内は、何処にでも好きな所に移動できるが、取りあえず、座席に座って雰囲気を味わう。

しばらくして車掌が検札に来る。 かなり歳がいっている人で、制服、制帽がフランス風と言うか、ベルギー風なのであろうが、年齢の風格と合わせてとても感じが良い。

少し座っていたが、やはり列車の後や前に行って、写真を撮りだす。

野原と言うか畑と言うかかなり田舎の雰囲気だ。
時々駅があるが誰も乗ってこない。 

その内に踏切の手前で列車が止まった。
遮断機のない道路だ。

こんな道路では車が一旦停止では無く、鉄道の方が一旦停止する様だ。

そして、若い運転士助手が、車両から降りて旗を持って、道路に立ち車を止める。
そして、気動車はゆっくりと道路を渡って、再び若者を乗せて走りだす。

なんともゆったりした風景だ。 一日に2、3本しかない保存鉄道なのでこれで十分なのである。


踏切に差し掛かると列車が止まる。


踏切で車を止める運転助手。


トンネルを一つ抜けて、列車は進む。 多少の高低差はあるが山と言えるほどの景色では無い。

途中の駅で、運転士や運転助手などと記念写真撮ったり、お上りさん的な旅である。 

この人たちは皆ボランティアとのことだ。 運転助手だと思っていた人は、運転もするし、行った先の整備工場で車両の整備をしに行くと言う。

このまま、がらがらのまま終点まで行くかと思うと、団体さんが乗って来た。
ハイキングにでも行って来たのだろうか、年寄が多い。

たまにはこれぐらい乗ってくれなければ、廃止されかねない。


こういう景色のところを通って終点が近ずく。

終点のTreigneトレニュ駅は大きな駅で、レンガ建ての駅舎や附属の建物が並ぶ。 しかし、建物は使われていないようで、廃屋のようである。

団体さんはここから、近くの小さなレストランに食事に行ったようだ。

私はこれから、鉄道ミュージアムに行くのだが、ひょっと気がついた。

三峡谷鉄道だよね、いったい峡谷は何処にあったのだろう? 車窓からは気がつかなかった。 帰りに見よう。




6 ミュージアム

トレニュ駅のだだっ広い構内には、蒸気機関車や貨車等があちこちにあった。
そして、その一角に、新しい倉庫のような建物があり、それが3峡谷鉄道の鉄道ミュージアムだった。

これについての情報はほとんど知らなかったので、たいした事は無いと思って入ったのである。

たしかに建物の大きさは知れていた。
しかし、中には並べられるだけ並べたというほど、多くの車両群が展示されていた。

テンダー蒸気機関車から、小さな保線車両まで。
小物では各国の鉄道員の帽子があり、日本の帽子もあった。

こんなにたくさんぎっちり車両が置いてあっては、どうやって写真を撮って良いか解らない。

それでも本で見た事のある車両等は思わずカメラを向けたくなる。 幸いだったのは、この旅行ではメインカメラはパナソニックのFZ5であり、ディジタルカメラである。 EVFが見にくいと文句を言いつつも、ディジタルのお陰で何枚でも写真が撮れる。

ベルギーの蒸気機関車は緑に塗られている。そして足回りの赤との対比が綺麗だ。 あらためて緑のベルギー色も良いなと思った。

他に青く塗られたタンクロコもあり、茶色の2軸の蒸気動車もある。 バラエティーが豊かだ。
これは、梅小路の蒸気機関車館で真っ黒な蒸機ばかりを見るのとはかなり様子が違う。


嬉しくなったのは、フランスの電気機関車、

この一癖も二癖もある、模型でしか見た事のないSNCFのBB12000があったことだ。 綺麗に塗装されて置いてあった。 マークがSNCBではないのでベルギーでは無い。

そう言えば、ほかの車両も綺麗に整備されている。

実はこの建物の横が整備工場になっている。

これは、ミュージアムにあった車両を整備するために工場側に移動しているところだ。

先ほどの運転助手もいて、手で押して車両を移動させている。
それにしても、この気動車も綺麗だし、好ましい形をしている。

中の小さな売店の綺麗なお姉さんたちに身振り手振りで頼んでサンドイッチを作ってもらって昼食を摂る。

無理やり作ってもらったので、質素なものだがありがたい。


この建物が整備工場で、この後ろにミュージアムがある。

雰囲気の良い駅構内。 

ブラブラしながら帰りの列車を待つ(本当は必死になって写真を撮りながら)。



7 帰路


食事に行っていた車掌さんも戻ってきて、いよいよ帰りの列車が発車である。
かなり歩きまわって疲れたのと、今度こそローカル鉄道を味わいたいと、座席に座った。

しかし、しかしである。 運転士さんが来て、一番良い席に座らせてあげると、運転台の横に丸椅子を置いて、そこに座れと言う。

最高の席ではあるが、ゆったり座席に座る事は諦めなければならない。

運転士の横に陣取って、出発!

列車は元来た路線を戻るのであるが、やはり峡谷らしきものは無い。 日本で峡谷と言えば、黒部峡谷や、少なくとも保津峡ぐらいの峡谷を意味する。

しかし、ここでは小川ぐらいを峡谷と言うようだ、というかフランス語を日本語に訳した時に峡谷となったのかもしれないが、私が目にしたのは小川だけである。

やがて、トンネルにかかった。
あまり長くないトンネルで、出口が近付いていた。

すると速度を落とし始めて、トンネルから顔を出した所で止まってしまった。

運転士がドアを開けて、この景色が一番良いから降りて写真を撮れと言う。

そうか、私にトンネル出口の写真を撮らすためにわざわざ止まったのだ。

駅でないところで止まると、降りるのにホームが無いので、地面がずいぶん下にある。

何とか降りて、車両の前から写真を撮る。
それが今週の画像のトンネルを出たところの景色である。

しかし、わざわざ列車を止めて写真を撮らせてくれているので、急いで撮らなければと思って、同じ場所から数枚撮っただけだった。
次の列車までは何時間もあるので、かなり時間を掛けて色々なアングルから撮れば良かった、とは後から思った事で、その時は日本の電車を止めてしまったようであわててシャッターを切ったのだった。

列車に乗る時に車掌さんが手を差し伸べてくれたけれど、力を入れたら2人とも転げ落ちると思ったのでがんばって一人で上がった。

列車は発車して、また遮断機の無い踏切に差し掛かった。 今度は助手がいないので、よっぽど私が旗を持って降りて交通遮断をしようと思ったが、気動車は一旦停止した後左右を見ながらゆっくりゆっくり踏切を渡った。

あー、残念、旗を持って降りれば話のタネになったのに、、

終点の駅に着いて、運転士さん車掌さんと記念写真を撮影して、機関庫を覗くと中学生ぐらいの子供がお母さんと機関車を見に来ていた。 私と目が合うとお互いに微笑んで、ベルギー人はなかなか良い。

この駅付近もとても感じが良く、名残惜しかったが、国鉄のマリオンブール駅に向かう。

途中の民家でたき火をしていたので、その雰囲気が良く思わずカメラを向けると、主人らしいお親父さんと目があってしまった。 家の庭を盗撮したようでちょっと気まずいかなと思ったら、笑っていたのでOK。

教会のある広場でしばらく一休み。
すると、さっきの親父さんが家族を連れて歩いてきた。

私を見つけて、おー、とにこやかに寄って来た。
もちろん言葉は解らないが、いくらでも写真を撮っていいよという感じ。

そこで、親父さん夫婦の記念写真を撮ったのでした。


知らない街で、知らない人とちょっとの間でも親しくなるのはとても嬉しかった。 

この後国鉄が遅れて大変な目に逢ったのであるが、それも後からは楽しい思い出となり、無事ホテルに戻れたのでした。

ベルギーの人々の優しさに触れられた一日でした。


三峡谷鉄道 完