放射線とは何だろう
16 最終回 私はこう考える 

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2016/1/

16 最終回 私はこう考える

私は悔しいのです。 ノーベル賞を貰った人が何人もいる国で、放射線の事となるとまるで幽霊でも見るように怖がるばかりで、正しく勉強をしようとしない人が多い事を。 これまでに書いてきたように放射線の影響ははっきり解っています。 幾らでもまともな本があります。 

それなのに、例えば原発再稼働について、事故の時に逃げる事ばかり議論されている。 でも、逃げることで生活の環境が変わり、それにより放射線被曝よりもずっと健康状態が悪化する可能性があります。

ここで、福島に出向いて住民の健康管理をされている東京大学の
中川恵一先生の「がんの練習帳」という文章から福島での事故についての部分を抜き出してみます(2015年8月頃の週刊新潮)。 この先生は放射線医学について日本で最高クラスに詳しい方と私は思っています。



「日本人は、特定のリスクに対して過剰な反応を示すことがあります。 福島の原発事故でも、降ってわいた「放射線被曝」というリスクに、日本中が大騒ぎをし、事故から4年半になろうとする現在も、県内に約65000人、県外に約45000人、合計11万人もの人が避難を続けています。 

 一方、事故当初心配された県民の被ばく量、とくに食品からの内部被ばくはほぼゼロに抑えられています。 外部被ばくは内部被ばくより多いとはいえ、ほとんどすべての住民で1ミリシーベルトを下回ります。
 このレベルの被ばくは、他の生活習慣の中のリスクに埋もれてしまい、がんの増加を検出する事は不可能です。 受動喫煙や野菜不足でも100〜200ミリシーベルトに相当するために、わずかな被ばくによる影響は検知することができないからです。 逆に言えば、放射線被ばくは、一般に思われているほど、人体に影響を与えるわけではないということです。

 国連科学委員会も「がん患者の増加は考えられない」と報告しており、私は「福島の勝利」と呼んでよい状況だと思っていますが、4年半にわたる「長期移住」の結果、住民の健康状態は非常に悪化しています。 健康診断の結果でも、肥満、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、などが明らかに増えています。 
がんの原因の3分の2近くが生活習慣によるもので、糖尿病になるとがん全体では2割、膵臓がんや肝臓がんでは2倍にも増えますから、このままでは、発がんを避けるための避難によって、がんが増えるという皮肉な事態を迎えます。

 がんに対する無知も低線量被ばくについての誤解も、その背景には「リスクのものさし」の欠如があると思います。

避難民に目立つ喫煙や大量飲酒は2000ミリシーベルトもの被ばくに相当しますから、低線量被ばくの健康への影響は暮らしの中にある諸々のリスクと比べて大きなものではありません。 長期移住のリスクに目をつぶって避難を続けるのは、結果的にはマイナスになってしまいます。」



まだ文章は続きますが、この部分の記述を良くかみしめていただきたい。

放射線に被ばくしたというだけで怖がっているけれど、医師の目からは、それが人体に影響を与えるかどうかであるし、むしろ他の危険因子が増える方が、健康に良くないと、あくまでも人間の健康を重視しています。 
単に物理的に放射線に被ばくしてはいけないとだけ言っている人達とは違います。

これはほぼ私が思ってきた事と同じです。 事故直後から特定地域は兎も角として、被ばくの少ない地域では避難しない方が健康に良いと私は言ってきました(何処にも通じていないけれど)。 これは病院で放射線関係の仕事をしてきた人ならほとんど同じ意見だと思います。 


何故、日本人は異常に放射線を怖がるようになってしまったのか?

それは原爆のような大量被曝を見てしまった事がありますが、その後広島や長崎が残留放射線のある中で暮らしてもほとんどの方が寿命をまっとうされている事実を見ないからです。 

国内での原発の最大事故である福島でも誰ひとり亡くなっていません。 原発の中にいた人もです。 

世の中で最大事故と言えるようなものは沢山の方が亡くなっています。 それどころか、自転車事故でも毎年何人も亡くなっています。 

放射性物質は拡散したが人体には影響が無かった。 もちろん対応したからですが、これが事実です。 これからもがんは増えないと言う事を前述のように国連科学委員会も報告しています。


そして、マスコミがほとんど自分たちの主義主張のために公平な報道をして来なかった事にあると思います。 そしてそれを信じた人たちが大袈裟に危険だと吹聴した事にあると思います。 科学では無く主義主張の世界です。

ですから、この文を読んで下さった方には是非、科学的に物事を見て欲しいのです。 感情や思い入れ、主義主張が先に立つと、放射線の危険性を的確に判断できずに、放射線を避けることでむしろ健康に悪い方に進んでしまいます。

福島の方々が気の毒でならないのです。 危険危険と言いすぎて、影響が無い場所の人達まで避難させられて、苦しい生活を強いられて健康も害されて、挙句の果てに帰還しようにも町は寂れて人が住めない状態です。 避難していなければ、それまで通り普通の生活を送れていたはずです。

 福井県の高浜原発が再稼働し始めます。 これについて、事故の時に住民の避難方法ばかり議論されていますが、福島の事例を良く見れば、必ずしも避難する必要は無いし、避難した方が健康に悪いかもしれないことや、自分たちの住んできた町が廃墟になってしまうリスクも含めて、どの程度の事故なら避難して、どの程度なら避難しないと言う両面から物事を考えて欲しいと思っています、というより両面から考えるべきです。

この避難について、年寄は避難が難しいから先に避難できるように方法を考えなければと新聞は書きたてています、 それが間違いだとは気が付きませんか?  

放射線の影響は若い人ほど受けやすい、そして年寄は放射線の影響を受けにくい、 しかし環境の変化にはとても弱い。 この事を考えただけで、避難は子供から、年寄は避難しなくても良い、もし避難しなければならないほどの高線量であれば、避難は一番最後で良い、と考えるのが当たり前なのです。

なお、原発が稼働すれば事故が起こると言う意見も、稼働していない原発でも事故が起こった事実があるのに、停止していれば安全という考え方に、共感できません。 

そして福島の事故があったからこそ、何処の原発でも安全対策をしているので、福島以前よりも大幅に安全になっているはずなので、稼働すれば事故が起こると一方的に決めつけているのも、納得できません。 絶対的に安全かと言えばそうではないと言いますが、以前よりはるかに安全だと私は確信しています。 世の中、絶対に安全と言う物は無いのですから。


最後にもう一度覚えておいてほしい数値をあげます。

1. 100ミリシーベルト被ばくしても99.5%の人には何も起こらない。 被ばくしていない人でも50%の人はがんにかかる事を考えると、100ミリシーベルトや200ミリシーベルトの被ばくは、何も影響が無いと思っても良い。

2. 100ミリシーベルトの被ばくとは、福島で一般の人は1ミリシーベルト以下、最も多い人で4年間で23ミリシーベルト程度だった。 だから、普通には100ミリシーベルトの被ばくをするような機会は無い。 100ミリシーベルトとはかなり多い量なのであり、それでも影響が無いと言う事。

3. 環境基準が1年間に1ミリシーベルトと決められている。 法律的にこれを越える所では住めないが、1ミリシーベルトとは、宇宙飛行士がほぼ1日で被ばくする量である。 何カ月も宇宙にいれば何百シーベルトにもなるが被ばくの影響が出たとは聞いたことが無い。  環境基準が驚くほど低い値に決められてしまったため、基準を超えると怖いと思ってしまうだけだ。 年間1ミリシーベルトなら100ミリシーベルトまで100年もかかる。

4. 飛行機でアメリカやヨーロッパを往復すると、0.1ミリシーベルト(100マイクロシーベルト)の被ばく。 パイロットやアテンダントはかなり被曝しているはずだし、仕事で海外を飛び回っている人も同じだが、これも影響は聞いたことが無い。

5. 普通に暮らしていて、世界平均で地面や空から1年間で約2.4ミリシーベルトの被ばくがある。 環境基準の1ミリシーベルトはこれに+1ミリシーベルトだと思われる。 世界の中では年間300ミリシーベルトを超えるような場所もあるが、その地域の人々に健康の影響は出ていない。

6. 人体には約4000ベクレル程の放射性物質があり、人体から放射線が出ている。 母親の体からも出ているし、子供の体からも出ている。 犬や猫からも出ている。 何人かいればそれだけたくさんの放射性物質があるのと同じだが、放射性物質があると言えば怖がるが、人が集まっているから放射線が怖いとはだれも言わない。  ある程度の放射性物質は常にあり、常に放射線がある世界に何万年も前から住んでいる。


7. 放射線以外に人体に影響を与える因子が色々ある。 例えば風邪引きや交通事故などであるが、大きな意味では地球温暖化や大気汚染がある。

地球の酸素はエベレストの8000メーターの高度でほぼ無い。 これを地球儀で見れば

たったこの紙の厚さ程(0.2mm)しか空気は無い。 

これを見て私は愕然とした。地球にへばりついている僅かしかない空気を大事にしなけらばならない。 

だから原発停止で1日100億円と言われるほど大量の化石燃料を燃やして空気を汚すのが良いのか、再生エネルギーがまだまだ頼りにならないしばらくの間は原発に頼るのが良いのかなど、両面から物ごとを考えなければならない。



以上。

読んできた皆様の中には、何故放射線がこんなに影響が無いと言えるのか?と思った人もいるでしょう。

でも、線量が少なければ影響が無いのは当たり前です。 多ければ影響があるのも当たり前です。

いや、幾ら少なくても影響があるんだ、と言う人もいるでしょう。 でも、実際の生活の中で、他の因子に完全に隠れてしまうような程度は影響が無いというのが普通の物事の考え方です。 放射線も普通の物事の一つに過ぎません。 幽霊でもなく怨霊でもなく。


なお、世界では原発がまだまだ増えています。 中国の日本よりの沿岸には原発が何台も並んでいるそうです、もし事故があればPM2.5のように日本に放射線物質が飛んできます。

世界的に考えると、福島での事故を踏まえて、より事故が起きない、安全な原発を日本で作って世界に売る方が、安全と考えることもできるのかもしれません。

ともあれ、放射線に詳しい若い科学者、技術者を増やさないと稼働するにせよ廃炉にするにせよ、廃棄方法を考えるにせよどうしようも無くなります。

逃げるのではなく知識を持て!