放射線とは何だろう
6 シーベルトやベクレル

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2013/4/

6 シーベルトやベクレル

 
放射線を被曝した時に、いくら被曝したかと言うのにシーベルトと言う単位が使われています。


シーベルトとは何か?

物の重さの単位にグラム(g)を、長さの単位にメートル(m)を使います。 それと同様に被曝した時にどの程度かを示すのにシーベルト(SV)を使っているのですが、正確にシーベルトとは何かを説明するのは難しいし、知らなくても良いと思います。 単に「人体に対する影響も含めた線量」程度の理解で十分でしょう。

と言うのも、メートルを決めた基準は? とかグラムの基準は? と言う事を知らなくても、良いわけで、実際にそれらの基準を知っている人はほとんどいないと思います。

でも、1mとはどれぐらいか、とか1gはどれぐらいか、と言う事は皆知っています。
ですから、長さや重さはこれらの値で見当が付くのです。

一方、1シーベルトとはどんな量か? というのはほとんど知りません。

これを説明する前に、ミリとかマイクロというような補助単位の話。
1メーターの1000分の1は1ミリメーター(mm)、その1000分の1が1マイクロメーター(μm)です。 

多分これぐらいは殆どの人が分かっているはずですが、放射線の話になるとシーベルトという知らない単位になるだけです。
1シーベルトの1000分の1が1ミリシーベルト、その1000分の1が1マイクロシーベルトと長さと同じです。
しかし放射線と言うだけで、全然別のことのように思って、100マイクロシーベルトと言うと、1シーベルトより多いと思う人がいるのです。 前の数字だけに惑わされるのです。
100マイクロシーベルトは1シーベルトの1万分の1です。

と言う事で、この補助単位は絶対に理解しておいてもらわないと、1000倍ずつ違うので、これを間違えると物凄い間違いになります。




1シーベルトとはどんな量か?

  これを理解するにはいくつかの例を知ることです。 

1) 自然放射線の量で年間2.4ミリシーベルトです。
普通に生活していて、年間に被曝する量が2.4ミリシーベルト、50歳の人なら今までに、2.4×50=120ミリシーベルト被曝している事になります。

2) 飛行機でアメリカを往復するときの被曝線量です。 上空に行くと宇宙線の影響が多くなるので、飛行機に乗っている間、地面に居るよりも被曝は多くなります。 アメリカ往復では、約 100マイクロシーベルト被曝します。 マイクロです。

先日、某新聞に、福島で被災した人が、疎開していて、原発の近くにある自宅に物を取りに帰る時の様子が載っていました。

それによると
 「途中で防護服に着替えバスで被災地に近ずくと線量計の音が大きくなり、線量は毎時2.4マイクロシーベルトを指していた。これは、通常の10倍の被曝に当たる量であり、思わず緊張が走る。 、、、」

何気なしに読んでいると、物凄く被曝したように思えるのですが、被災地域に自宅に物を取りに帰るのは、数時間の滞在だと思われます。 そこで、被曝線量を計算すると、10時間滞在したとして毎時2.4マイクロシーベルトですから、10×2.4=24マイクロシーベルトとなります。

これはどの程度の被曝かというと、アメリカ往復で100マイクロシーベルトですから、その1/4でしかありません。
20時間居たとしても、アメリカ片道分の被曝です。

この新聞に書いてある、毎時2.4マイクロシーベルトが正しければ、こういう値になり、当事者と読者を怖がらせるだけの記事だと思います。
なお、一時帰宅した人と違って、原発の中で後処理をしている人はそれよりはるかに線量率(時間当たりの線量)が高い所に何時間も何日もいて、その被曝の方がはるかに怖い。

3) 高所に行くと被曝線量が増える事は登山でも同じです。 2000メーターの山に登れば、毎時0.1マイクロシーベルト被曝が増える。 富士登山などある意味被曝しに行くようなものです。 当然ながら宇宙旅行に行くと平地の約300倍と、けた違いに被曝が増えます。 宇宙飛行士は一日約 1ミリシーベルト被曝します。

4) 100ミリシーベルトでがんになる確率が0.5%ということである。
最近、福島の人達の被曝線量を調べた結果、最大の人で23ミリシーベルトだったそうです。

これから、100ミリシーベルトと言うのはかなり大きな線量だと言う事が解ります。
でも、人間生きていると前述のように何十年かの間には簡単に100ミリシーベルトを超える被曝をしているのですが、一時に被曝したのとは異なります。 多分、年間2.4ミリシーベルトと言うような低い線量の積み重ねでは影響が出ない(出にくい?)と思われます。

まとめ的に 1シーベルトとは物凄く多い被曝である。 一気に100ミリシーベルトでも大量被ばくである。 マイクロのオーダーならかなり低い、 と私は思っています。

線量を考える時に、1時間当たりとか 1秒当たりとか時間の単位を付けて言う時と、単に何シーベルトと言う事があります。 前者は時間当たりなので、その場の放射線量が多いかどうかを判断するために使われます。 そして被曝した線量はそこに居た時間を掛けないと被曝線量にはなりません。 後者の単に何シーベルトと言うのはその結果として出る被曝した線量で、積算線量とも言います




グレイ(Gy)の話。
 シーベルトは被曝の量に使いますが、病院でレントゲン検査などを受けた時の線量にはシーベルトよりもグレイを良く使います。 これも放射線の量を表す単位ですが、シーベルトが人体への影響も含めた量であるのに対し。グレイは正味の放射線の量だと思って良いでしょう。




ベクレルの話
 放射線と放射能を混同しそうになります。

まず、レントゲン撮影などに用いるエックス線は放射線の一種ですが、これはX線管という真空管に電気を与えて発生させます。 ですから懐中電灯の光と同じで、スイッチを入れないとエックス線は発生しません。 レントゲン室に入っただけでエックス線が当たらないかと心配する人がいますが、スイッチを入れて電気を与えない限り、部屋の中にエックス線が出ている事はありません。 また、光と同じですから照射を止めれば即無くなり、部屋の中に残留している事はありません。

一方、放射性物質と言って、それ自体から放射線を出す物質があります。
原発事故で有名になったセシウムなどです。 ただし、普通のセシウムは放射線を出しません。 セシウムの中でも特別なもので、セシウム137など後ろに数字が付き、この数字によって性質が異なり放射線を出すものや出さない物になります。

そして出てくる放射線にもガンマ線、アルファ線、ベータ線など色々種類があります。
ここでガンマ線はエックス線と同じものですが、ほとんどの場合普通に使うエックス線よりはるかにエネルギーが高いものが多いです。 後の2つは省略します。

そして、この放射性物質がどれほど放射線を出す力があるか、というのが放射能です。 放射する能力ですね。 この放射能を表わすのにベクレルを使います。 簡単に考えると、放射性物質の量がどれほどあるかと言うのにベクレルと言う単位を使います。

ただし、放射性物質によって出てくる放射線がちがったりするので、同じベクレルでも異なる事になるので、その前に物質名も併記して、セシウム137が何ベクレルとか表記します。

放射性物質と言うものは厄介な物質です。
エックス線なら、電気を与えない限り出てきませんが、放射性物質からの放射線は絶えず出続けています。 出る事を止める事は出来ないので、それにカバーを付けて放射線を阻止したり、地中深くに埋めたりします。

この放射線が出る量、放射能は時間と共に減ってきます。 それは放射線を出した時にその物質が他の物に変わって行くからです。 この減る量ですが、半分になる時間を半減期と言います。

ですから同じ放射性物質で、初めに1万ベクレルあったものが半減期だけ時間がたつと5000ベクレルに減ります。 しかしこれは半分になるだけの時間ですから、そこからまた半減期経つと、元の1/4になりますが、幾ら時間がたってもゼロには成りません。 限りなくゼロに近ずくだけです。

と言うことで、放射性物質のを表わすのにベクレルを使います。
なお、放射性物質と放射能の意味は少し違いますが、便宜的に放射性物質の事を放射能と呼んだりしています。

さて、ここでまた補助単位の話。
今度は大きい方で、 
1000ベクレル=1キロベクレル
1000キロベクレル=1メガベクレル(100万ベクレル)
1000メガベクレル=1ギガベクレル
1000ギガベクレル=1テラベクレル

 これらはパソコンのメモリーで聞きなれた言葉でしょう。ただしパソコンでは、きっちりした数値では無いのですが、それは置いておきます。



1ベクレルとはどんな量か?

「1秒間に1個の原子核が崩壊する壊変率を表わす。
ここで、ベクレルは1秒間に放出される放射線粒子の量を表わすものでは無い。
それは、核種によって、放出される放射線粒子の数が異なるからである。」

何のことか良く分からないと思いますが、放射性物質によって同じ1ベクレルでも出てくる放射線の量やエネルギーが異なるという事です。

こんな話をしても何のことか、書いてる本人でも分からなくなるので、違う観点から。


キュリーとの比較
 放射能の量を表すのに、私が学生のころはキュリー(Ci)と言う単位を使っていました。
それが、最近ではベクレル(Bq)と言う単位が使われる様になりました。
インチとセンチメーターみたいなものです。

ここで、キュリーとベクレルの換算をすると。

1キュリー = 3.7×1010ベクレル = 37ギガベクレル = 370億ベクレル
1ベクレル = 2.7×10-11キュリー = 2.7ピコキュリー

簡単に言うと、ベクレルは物凄く小さな単位なのです。
ですから、1万ベクレルといってもキュリーで表わせば、

     10000ベクレル=0.00000027キュリー

このように、昔の単位で表わして、0.00000027キュリーと言えば、すごく少ない量のように感じるでしょう。

ともあれ、1ベクレルと言うのは物凄く少ない量と思って下さい。



人体内のベクレル
 60kgの人間の体の中に約4000ベクレルほどのカリウム40があります。
半減期は12.8億年、壊変の過程でベータ線やガンマ線を出します。
カリウムは体に必要な元素ですから、常に体中にあります。その普通のカリウムにまざって僅かにあるのがカリウム40で、摂取と排出などの出入りがあり、結果的に常時体の中に4000ベクレルほどあるということです。

ですから、内部被曝も常に4000ベクレルのカリウム40から受けています。

一方、ガンマ線も出ますので、体外にも放射線が放出されます。 隣に誰かいれば、そこから放射線を被曝すると言う事です。

すなわち、人間は4000ベクレルの放射性物質と同じ事です。

満員電車で、すし詰め状態ならそれなりの被曝がある。

100人いれば、100×4000=400000ベクレル(40万ベクレル)の放射性物質がある。

1万人コンサートをやれば、その会場に、10000×4000=40000000ベクレル(400万ベクレル)の放射性物質が集まったことになります。

100万人都市なら1000000×4000=4000000000=40億ベクレル の放射性同位元素がある。


と言う事ですが、こうやって数字で書くと怖いのですが、実生活でそんな事は全然思っていません。

しかし、メディアでは、100ベクレルの放射性同位元素が見つかったなどと騒ぐのです。 たった100ベクレルでもです。 

ところが東京マラソンで2万人集まって盛大に行われたと書いても、800万ベクレルの放射性同位元素が集まったとは書きません。

なお、体内のカリウム40は体重にほぼ比例するので、120kgほどある人は8000ベクレルある事になります。 犬や猫でも体重に応じた量があるのは当然です。



核医学検査で
 核医学検査で放射性同位元素を使います。 被曝を少なくするために半減期がとても短いものを使います。 しかし、検査できるだけの量は体に投与(飲んだり注射したり)します。

例えばがんの骨転移などを検査するのに、テクネチウム99mを用いますが、一回あたり、500メガベクレル前後使用します。すなわち5億ベクレルです。
この半減期は6時間です。

半減期がセシウム137の30年に比べて、とても短いので比較できませんが、投与された直後は5億ベクレルの放射性同位元素が体内に入ります。 これでの被曝はもちろんありますが、それが体に影響するほどのもので有れば、当然医学に使いません。 そして、日常茶飯事に行われている検査です。

そして、患者さん本人のテクネチウムは体外に排出されたり、半減期でみるみる減少しますが、医師や放射線技師は、その5億ベクレルの患者さんのすぐ横で検査します。 そして、また次の新たな5億ベクレルの患者さんの検査と、毎日何人もの5億ベクレルの横に立つわけです。

それを定年まで何年も続けても、特に体に影響が無いわけで、影響があるような量で有れば、当然仕事と言えども行う訳にはゆきません。


ということでベクレルの話は終わり。
ここで、示したのは、何ベクレルあっても安全と言う訳では無くて、ベクレルと言う単位は物凄く少ない量で、1000や10000などの数値で怖がる量では無いと言う事です。

ただし、内部被曝については、複雑なので飛ばしますが、人類は何万年も前から常にカリウム40の4000ベクレルから内部被曝をしていると言う事です。
なお、セシウム137については、半減期は30年ですが、人体内に入った時に排出もされますから、内部被曝的には実効的な半減期が70日とされています。



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