放射線とは何だろう
5 被曝するとどうなる

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2013/4/18

5 被曝するとどうなる

 
放射線技師になった当時、高校の同級生から「放射線に当たると子供が出来ないんと違うのか? とか、死ぬのと違うのか?」などよく聞かれました。

こういう質問には被曝したか、被曝していないかの2つで言われることが殆どです。 でも、問題は被曝した線量と何処に当たったかです。 単純に被曝したかしないかではありません。

もちろん、大量に被曝すれば死にます。 その大量とはどれぐらいなのか?

大量に被曝した時の影響ははっきりわかっています。



(この出典は忘れましたが、信頼できる値のはずです)

これによると、全身に0.5シーベルト被曝すると、白血球の一時的減少が起きます。 1シーベルトでは「吐き気や倦怠感」が生じます。 7シーベルト全身に受けると死亡します。
一方、局部的(体の一部だけ)に被曝すると3シーベルトで脱毛が生じ、線量が増えるに従って、皮膚が赤くなり、8.5シーベルトで水膨れ、さらに多くなると潰瘍が出来ます。

また生殖線に5シーベルト被曝すると永久不妊になります。

私が、放射線治療で受けた線量は、66グレイですが、シーベルトに換算すると、もし全身なら66シーベルトになるので、当然死亡している量です。  でも頸部に限定した照射なので、頸の皮膚や甲状腺や食道への被曝として、シーベルトの値は計算上7.26シーベルトになります。 皮膚の皮が潰瘍になって溶けたのもうなずける値です。 全身なら死亡する量ですが、一部だけなのでまだ生きていて、今、この文を書いています。そして、甲状腺にかなりの被曝があるので機能が低下してしまい、ずっと薬を飲み続けています。

これは放射線治療と言う管理された状態での被曝ですが、事故等の被曝では、線量が解らない事が殆どですから症状から、どれぐらい被曝したのかを推測することになります。

このように、大量被ばくでの影響はわかっていますが、0.25シーベルト(250ミリシーベルト)以下では臨床症状なしとなっています。 これは目に見えるような症状が出ないと言う事です。
でも、後日何か影響が出るのではないかと心配になります。

実は放射線の影響には2種類あります。
今まで述べたのものは被曝すれば絶対にこういう影響があると言うものです。
絶対にと言う事で「確定的影響」と言います。

それに対して、がんになるかもしれない、というような、絶対になるとは限らないが影響があります。  

それを「確率的影響」と言います。

ちょっと言葉が似ているので、混同しないでください。「かくてい」と「かくりつ」です。

すなわち
1. 確定的影響(上記)
2. 確率的影響
 この2つがあります。












これをグラフで表わすとこのようになります。 横軸が被曝線量で縦軸が影響の出る頻度です(字が一部消えたのは、パソコンのテクニックが足りないためです、ごめん)。

まず、確定的影響は前述のように、ある線量までは何も影響が無いのですが、ある線量以上は確実に影響が出ます。

一方、確率的影響は、ある線量までは点線で示されています。そしてある値から上は実線で示されて、線量が増えると共に確率が増えることを示しています。

この、確率的影響で生じるのが、がんや白血病、それに遺伝的影響です。

放射線に当たるとがんになる、というよりがんになるかもしれない、と言う事です。
そしてそれは、線量が多ければ多いほど、その確率が高いのです。 でも確率ですから線量が多く当たってもがんにならない人もいます、ということです。

そして、低い線量で点線になっているのは、実はある線量以下での影響は分からないのです。 分からないと言うと、分からないから怖いと言う人もいますが、調べても分からないほど低い確率でしかないと言う事です。

点線で書いてあるのは、実際にはその領域の線量では影響が見つかっていないので、そこでの影響は無いと言えるほどなのですが、放射線防護の観点から安全側で考えて、線量0まで影響があるものとして、点線で示しているのです。

そして、このように低い線量では、ある程度被曝した方が細胞が活性化して体に良いという学説もあります。 それはホルミシス効果と言われて、ラジウム温泉などに入ると体調が良くなるなど、昔から知られていることもあります。

一方、その反対で、低い線量ではむしろ体に良くないという説もあります。 線量が低くなるとこの点線が高くなるようなカーブを描く事になるので、それがあり得るとは思えません。

では、何故、低い線量では影響を見つけられないのか?
放射線の影響は人体実験できませんから、昔から放射線を浴びてしまった人や、原爆や原発の事故で被曝した人の受けた影響から調べられてきました。 大量の被曝であればはっきりしたデータがあります。

しかし、非常に少ない線量については、それを調べるのはとても難しいのです。
それは、一人や二人の影響を調べても分からないので、何千人とかいうような、たくさんの人で同じ程度の被曝をした人と、同じ人数で被曝していない人の集団を比較しないと影響を調べられません。

被曝以外に色々な病気になる要因があるので、基本的に食生活や生活環境が同じで、しかも年齢構成も似た集団で被曝した集団と被曝していない集団を長い期間調べて、被曝による影響があるのか調べる事になります。

これについて、こんなに都合の良い集団など無いし、放射線に限らず、人体に悪影響があるもの全て、それがごく微量で有ればどの程度の影響があるのかを調べるのは容易では無いことが分かると思います。
放射線の影響は他の色々な悪影響のある因子に比べてよく調べられていて、ずいぶん低いレベルの影響まで分かっています。

その低い限度が、私が現役だった当時、被曝の説明に500ミリシーベルトの被曝なら明らかに影響があるが、200ミリシーベルト以下では影響が見受けられないので、気にしなくて良いと説明するのが普通でした。

その後、より安全への考えからこの200ミリシーベルト以下でも影響があると見做すようになり、現在では100ミリシーベルトの被曝で、0.5%がんになる確率があると言われています。

これが先ほどのグラフの実線の始まる部分になります。 そして100ミリシーベルト以下は調べても分からないほどの低い影響なのですが、前述のように安全側に立った観点から、0シーベルトまで比例関係にあると見做して点線で示しています。

改めて言うと、低い線量で影響が分からないと言う意味は、あまりにも影響が少なすぎて、他の病気や色々な要因の方が影響が大きいので、はたして被曝による影響があるのか無いのか分からないという意味です。

それから、100ミリシーベルトの被曝で0.5%がんでになると言うのは、100人全員が100ミリシーベルト被曝した時に、0.5人がその被曝によるがんになるかもしれない、残りの99.5%の人は被曝の影響はまったくないということになります。

一方、放射線に関係の無いがんそのものでの死亡率は30%ですから、被曝しなくても100人のうち30人はがんで死亡し、100人が被曝したら30.5人ががんで死亡することになります。

ちなみに、50%の人ががんにかかり、30%の人が、がんで死亡しますが、残りの70%の内30%は心臓病、30%が脳卒中などで亡くなり、さらに残りの10%の人は他の病気や事故で死亡し、老衰で死亡する人は、ほとんど数値に出ないほど少ないのです。

まとめると、低線量被曝については、必ず影響があるのでは無くて、ある確率で影響が出る。その確率は低線量ではとても低い。 逆に言うと影響の出ない確率の方がはるかに高いことになります。

このように書くと被曝しても大丈夫だと言っているように思うかもしれませんが、無用な被曝はしないように心掛けることが基本で、被曝してしまった時に、このような影響があり、それは被曝線量によって大きく異なるのです。
単に被曝したとか被曝していないとかの2つで論じるものではなく、放射線の影響について被曝線量に照らし合わせて正しく判断する必要があります。

そして、100ミリシーベルトとはどれぐらいの? というのは、項を変えて説明します。
ここでは100ミリシーベルトで0.5%の確率だけ覚えておいて下さい。
 

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