放射線とはなんだろう

3 がんと放射線 
  その2) 放射線治療
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upload 2013/4/6
追加2015/3/1


3.がんと放射線。 その2 放射線治療

私の喉頭がんもレーザーで患部を焼いた後、放射線治療をする事になりました。

放射線治療とは、放射線を当ててがん細胞を殺す事です。すなわち、放射線は体に悪い、と言う事を逆に利用して自分の体のがん細胞を殺すのです。

毒を持って毒を制するという感じです。ですから、がん細胞以外の所に放射線が当たると、健康な細胞も死んでしまうので、これは困る。

そこで、色々な技術でもって、がん細胞に放射線を当てながら、健康な細胞には放射線があまり当たらないようにするのです。

ここで、良い事は、健康な細胞はがん細胞より放射線に強い。でもちょっと強いだけなのですが、まあ、都合がよいことには違いがありません。

放射線でがん細胞を殺す、ということは物凄くエネルギーの高い放射線を大量に照射すると言う事です。

撮影に使っているような弱いエックス線と違います。おっと、まだエックス線の説明はしていませんが、何となくわかっているでしょうから、ここはエックス線と言う言葉を使います。


以前は放射線治療にはガンマ線(いつか説明します)が多かったのですが、今はエックス線です。それもとてつもなくエネルギーの高いエックス線です。

ここで、エックス線の「エネルギー」と「量」は違います。 エネルギーとはエックス線の強さで、車で言えば速度になります。 量は車で言えば台数になります。 

ですから、レントゲン撮影を車に例えるなら、遅い車1台で撮影できるのに対し、放射線治療は物凄く速い車が何万台も要るという感じです。

そして、大事な事は健康な細胞に放射線(ここではエックス線)を当てない事ですが、健康な細胞でも特に大事な部分、神経とか眼とかを守らないとがんは治っても他の障害が出てきます。

そこで、放射線を照射する方向を変えて、何時も患部が照射の中心になるようにすることで、周りの健康な細胞にあまり当たらないようにするとともに、重要な臓器にはさらに当たらないような方向を選びます。

このためには、がんの部分を正確に把握しなければならないので、あらためてCTや他の検査できっちりがんの部分や他の臓器などの位置を確認します。

 その上で、どれぐらいの線量をがん細胞に当たるようにするか、というのが、治療計画です。

私の場合は、まだ最新のサイバーナイフとかIMRTとかいう装置は無かったので、通常のリニアックという機械ですが、それでもかなりレベルの高い装置でした。 サイバーナイフとかIMRTとかの説明はしません。最新の機械だと思って下さい。


そして、CTシミュレーターという治療計画装置で改めて、きっちり放射線を当てる部位を決めて、計算して行きます。 具体的な治療計画です。




この後、いよいよ放射線治療が始まります。

放射線治療用のベッドに寝ます。放射線技師が治療計画で決めた位置と放射線を当てる範囲に放射線が当たるように装置をセットして行きます。 


リニアック(実際の患者さんではありません)


そして、技師は部屋を去って行き、私だけが部屋に取り残されます。 もちろん別室からテレビモニターで私を観察していますし、マイクで声は双方向でしゃべれます。 ちなみに、部屋の壁の厚さはコンクリートで2mぐらいあります。 それぐらい強い放射線を使うからです。



放射線が照射されます。痛くもかゆくもないのですが、すごく強いエックス線が頸に当たっています。

エックス線のエネルギーは4ミリオンエレクトロンボルトだったか、6ミリオンエレクトロンボルトだったのか忘れましたが、凄く強いです。
そして、エックス線の量は2グレイ(Gy)です。2ミリGyとか2マイクロGyではなく2グレイです。 とてつもない量です。 

グレイと言うのは聞き慣れていないかもしれません。 良く聞くのはシーベルトという単位です。 似たようなものですが違います。 説明は何時かするとして、放射線を照射している量についてはグレイという単位を使います。

そして2Gyとは、もし全身に照射されたなら、骨髄の造血細胞などが損傷を起こし、死に至る危険性があるような量です。

しかし、放射線治療では全身に照射する様な事はもちろんしなくて、患部だけに照射するのです。

そして、1回だけではありません。私の場合は33回、計66Gyの照射を受けました。 

一回当たり数分なのですが、そのために毎日通院です。 

そして、その内に頸の皮膚が赤くなり(赤斑)、そしてついに皮が膿んだようにになって、風呂で手で触ったら皮膚がドロドロと溶けて落ちました。

げげっと思ったのですが、実は痛くない。と言うのも下に新しい皮膚が出来ている。 人間の回復力は凄いものです。

ちょっと気持ちが悪いかもしれませんが、私の画像を載せます。

7月12日 放射線治療終了後1週間ほど。
膿でいやらしいが、痛くは無い。
この後、風呂で触ると膿がどろっと取れた。



7月17日 上の写真から1週間たらず。
ずいぶんきれいになった。


8月2日 もうほとんんど解らないほどに治った。


これらの写真をお見せするのは、大量に放射線が当たった場合こうなるのですが、その後結構早く治っているのを知っていただきたいからです。  ほとんどのメディアの記事ではこんなひどい事になったと言う事しか書いていませんが、治る事の方が大事でしょう?  治るんです!

皮膚はこのようになったけれど皮膚も治ったし、そしてがんが治った事が一番大事な事です。

なお、放射線治療でも部位により、こんなふうにならずに皮膚がきれいなままな事は多々あります。


大量に放射線を浴びた時には火傷と同じ様な感じです。 全身なら死亡するけれど局部だけなら、そこは皮膚が損傷を受けるけれども死亡まで至らない。そして、その部分は治療で治るし、ひどい時には跡が残ります。 

もちろん重要な臓器が損傷を受けるほどの放射線なら話は別です。

なお、一般の人が放射線治療以外でこのように大量の放射線を受けるような事はありえません。原爆を見てしまったとかそんな状況でなければこんなに大量に被曝するような放射線はそこらにないからです。 原発事故でも、原発内にいた人でも、こんなに大量の被曝はしていません。 はるかに少ない量です。


さて、放射線治療を受けている間、色々な薬も飲んでいるので、その副作用もあったりしましたが、仕事を休んでいる間家で、レイアウトを作ったりもできました。

かくして、大量の放射線でがんは治りました。



でも、喉の中の皮膚はかなり損傷を受けているので、だんだん声は出るようになったものの、未だに声は出しづらく、大きな声などとても出ません。

もし、放射線治療を受けていなければ、声帯摘出で、まったく声が出なくなっていたかもしれないし、がんが治らずに、死に至っていたかもしれません。

放射線を大量に照射されたおかげでがんが治ったのですが、一方放射線に当たるとがんになりやすいこともあります。 

しかし放射線治療の放射線で後日がんが発生したとは聞いたことがありません。 その辺は私はよくわかりません。

今がんに対して、放射線治療はとても効果がある治療法です。もちろん放射線を当てられない部位のがんもありますが、がんを早期で発見して放射線治療をすれば、かなりの確率で治癒できます。


この項終わり。


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